新国立劇場(東京都渋谷区)が、現代音楽で世界をリードする細川俊夫氏に新作オペラを委嘱、2025年8月に『ナターシャ』の世界初演を行います。台本は世界的に評価される作家、多和田葉子氏。作曲は世界の著名音楽団体、音楽祭から次々に新作を委嘱される作曲家、細川俊夫氏。世界をリードする芸術家のコラボレーションにより、“多言語”で“人間と環境”を問う意欲作です。
人間のエゴと地球環境の破壊。故郷を追われた移民ナターシャと少年アラトが、トリックスターの”メフィストの孫”に導かれ、ダンテの『神曲』のように様々な地獄を巡ります。そこにはプラスチック汚染、異常気象による洪水、山林火災、干ばつといった様々な現代の“地獄”が現出し、ドイツ語、日本語、ウクライナ語など最大36の多言語によって、現代文明と人間の始原の姿が対比されていきます。人間に破壊された地球のうめきが響き、欲望の渦で傷ついた心と希望とが、多文化を鍵に描かれるオペラが誕生します。

『ナターシャ』の舞台には、洪水や干ばつや火災が、プラスチックやコンクリートといったエレメントと共に“現代の地獄”となって次々に現出。人間の欲望が引き起こした惨禍により住処を追われた人々の嘆きと祈りが響きます。
今日、地球は気候変動が深刻度を増しています。加速する地球温暖化が引き起こす猛暑日や熱帯夜、大雨の増加、台風の強大化、大規模山林火災の頻発といった現象は、日々、衝撃的な映像と共に世界中のテレビのニュースで報道されています。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第6次評価報告書では「人間活動が主に温室効果ガスの排出を通して地球温暖化を引き起こしてきたことには疑う余地がない」と、極めて強い表現で人為的活動の気候変動への影響が警告されました。日本でも、21世紀末には20世紀末に比べ年平均気温が4.5℃上昇する(文部科学省・気象庁「日本の気候変動2025」)という予測が発表されたばかりです。
人間が次々に消費するプラスチック製品が海へ流出し、マイクロプラスチックとなって海洋環境を汚染する海洋プラスチック問題も留まるところを知らず、海洋生物のみならず人体への影響も指摘されています。更に、特に若年層の間では、気候変動や環境問題への不安による気候不安症も新たな問題として広がっています。
環境破壊により私たちの生きる地球が危機に瀕する今日、人間には希望はないのか、新作オペラ『ナターシャ』が世界へ問いかけます。
多言語が響き、人間のエゴを伝える古今東西のテキストが引用される、人間の叡智の旅
『ナターシャ』で核となる登場人物は、ウクライナから逃れてきたナターシャと、やはり住処を離れ彷徨っている青年アラト、そして、二人に現代の“地獄”を案内する自称「メフィストの孫」。2人の若者はメフィストの孫に導かれ、7つの“地獄”――樹木が伐採し尽くされた樹海「森林地獄」、マイクロプラスチック汚染とグロテスクな消費欲「快楽地獄」、大雨と濁流が覆う「洪水地獄」、金儲け主義が支配する「ビジネス地獄」、泥沼でアジテーションが渦巻く「沼地獄」、山林火災の「炎上地獄」、砂漠と古代文明の「干ばつ地獄」を巡ります。テキストはそれぞれ異なる言語が当てられ、ゲーテの『ファウスト』をはじめ、シェイクスピア、屈原など古今東西の文学からの引用を含む世界各地の言葉で語られ、地獄めぐりの道行きが人間の叡智の旅に重なります。そして、絶望の淵から言葉を超えて他者を理解し、結ばれていく若者の姿を通して、人間の始原の姿が浮かび上がり、地球の危機と対比されていきます。
日本から世界へ放つ多言語オペラに最高の歌い手が集結
タイトルロールのナターシャを演じるのは、現代音楽のスペシャリスト、細川音楽の理解者として細川の信頼も厚いソプラノ、イルゼ・エーレンス。新国立劇場でも2018年『松風』タイトルロールで類まれな超絶技巧と妖艶な狂乱の場、そして幽玄の世界に誘う身体表現で圧倒した名ソプラノです。
ナターシャと共に地獄を旅するアラトには、日本のトップ歌手に躍り出て、飛ぶ鳥を落とす勢いで躍進中のメゾソプラノ山下裕賀が新国立劇場初登場。艶やかな声とテクニックで歌う少年役が共感を誘うことでしょう。地獄への案内人メフィストの孫は、近年特に現代作品で評価を高め、世界の主要な歌劇場での活躍が著しいバリトン、クリスティアン・ミードル。ポップ歌手として森谷真理、冨平安希子も登場、大野和士の指揮のもと、観客を異世界へ誘います。
演出は舞台美術も手掛けるドイツのオペラ演出家クリスティアン・レート。次々展開する『ナターシャ』の7つの地獄と内的な世界をオペラパレスの大空間に照射する演出は、大きな見どころとなりそうです。
画像出典:公式プレスリリース
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イベント名 | ナターシャ |
会場 | 新国立劇場 |
公演日程 | 2025年8月11日(月・祝)14:00/13日(水)14:00/15日(金)18:30/17日(日)14:00 全4回公演 |
アクセス | 京王新線(都営新宿線乗入)「初台駅」中央口直結 |
予約 | チケット制 |
問合せ先 | TEL:03-5352-9999(チケット:新国立劇場ボックスオフィス) |
HP | 公式ホームページ |
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